書に触れることによって星の印が使えるようになるってことは、新しい書が増えるたび、星を宿すみんなに書に触ってもらわなきゃいけないわけですよね。
一箇所に集めてまとめてやっちゃえば楽なんだろうけど、それぞれ持ち場もあるわけだし、やっぱり団長がひとりひとり触らせてまわるのかなーと思ったり。
そしてやっぱりクーガ絡みのロベルトの発言はかわいかったり。
そんなわけでそんな話。主人公とロベルト。
「結局、オレはクーガに謝れなかったんだな……」
フューリーロアの骨細工に触れた指を、そっと降ろしてロベルトが呟いた。
猛き咆哮の書。クーガの最後の思いが込められた、異世界の遺物。
「機会ならいくらでもあったのに、どうせまた会えるなんて思ってた。そんな確実な未来なんてないってことを、オレはもう知ってたのに。突然、二度と会えなくなることだってあるって、知ってたのに。バカだな」
「ロベルト……」
目を背けるように俯くロベルトを見て、カナイは手の中の骨細工をそっと握りしめた。
偽書と呼ばれるそれらのものが伝えるのは、いつも、悲しい記憶だ。叶えられなかった願い。消え行く誰かの声。
最後に残した、強い思い。
だからこそ、辛くても伝えなければならない。星を宿す者なら、なおのこと。
何かを堪えるように唇を引き結ぶロベルトに、カナイは笑って言った。
「心配いらねえよ！ クーガならわかってるさ」
「…………」
「あいつは強くて、すげえいいヤツだったんだ。そんな小さなこと気にしてねえよ。あいつがどんなヤツだったか、王様や他のフューリーロアの連中見りゃ、おまえだってわかるだろ！？」
「……そう、だな」
頷くように首を揺らして視線を上げながら、けれどロベルトは、わずかに顔を歪ませた。
「わかってる。それでも、オレが、謝りたかったんだ」
いつまでも悔やむばかりのロベルトに、苛立ったようにカナイは声を張り上げた。
「謝る以外に出来ることだっていくらでもあんだろ！ だって、おまえはフューリーロアを救ったんだぞ！」
骨細工の書を、ロベルトの目に前に突きつける。
「あいつの大事な王様や仲間を、おまえは守ったんだぞ。クーガだって喜んでる。きっとおまえに感謝してる」
「……カナイ」
「だから、これからもずっと、あいつの分までオレたちは戦おう。そんで」
驚いたように見開かれたロベルトの目をまっすぐに見つめて、カナイは力強く続けた。
「あいつの仇を取ろう。必ず、オレたちの手で！」
ロベルトは小さく息を吸い込んで一瞬止め、それからゆっくりと頷いた。
「……ああ」
青い瞳に力が戻る。ロベルトはもう一度、大きく首を縦に振った。
「そうだな。絶対に！」
「おお！」
カナイは微笑むと、大事な骨細工を、確かめるように手の中に握りこんだ。そのままその手をロベルトに掲げてみせる。
「じゃあ、オレは他のみんなにも伝えてくる。クーガのこと。あいつが、どんなに凄え戦士だったか」
「ああ、頼んだぞ」
ロベルトがしっかりと告げた。カナイは頷き返し、じゃあなと言ってロベルトに背を向けた。
「カナイ！」
足早に歩き出したその後ろ姿を、ロベルトが呼び止める。振り返ったカナイに、ロベルトは眉根を寄せた難しげな表情で口を開いた。
「あ、あ……あり……」
「え？ なんだって？」
もごもごと呟く言葉はまったく聞き取れず、カナイが問い返した。途端にロベルトは怒鳴るように声を張り上げ、カナイを追い払うように手を振った。
「な、何でもない！ 早く行け、バカ！！」
「はあー？ なんなんだよ、おまえは……」
ロベルトの不可解な言動に文句を零しながらも、再び踵を返して歩き出したカナイを見送って、ロベルトはひとつ大きな溜め息をついた。
